参政党は自民党の票を奪っているのか?
2025年参院選の状況は、マス・メディア各社の中盤、終盤情勢によれば、ますます与野党逆転の可能性が高まってきたようである。1人区での野党優勢に共産党の戦略が関与していることはすでに示したとおりである。一方、情勢報道全体として注目を集めているのが参政党の躍進であることは間違いない。
筆者は、「与野党逆転の影で進んだ多党化――れいわ新選組、参政党、日本保守党などの新興政党は選挙と政治の見通しを難しくする【2024年衆院選分析】」において「新興各党に票が集まり、選挙競争に影響を与え始めた」と報告し、「新興政党とその背後にいる投票者が今や無視できない規模だということが、2024年衆院選結果の重要な含意」とも指摘した。伝えられる参院選の情勢は、この衆院選の状況からさらに進んで、新興政党である参政党の選挙競争への影響が出たものと考えられる。
ところで、中盤、終盤の情勢報道では、自民党候補が参政党候補に票を奪われているとするメディアがいくつかあった。今回参院選で与党が敗北して与野党逆転となるとすれば、それは自民党が参政党に票を奪われたためと報じられることになるかもしれない。
しかし、筆者が確認した限り、こうした言説に意味のある根拠を添えたマス・メディアの記事はひとつもなかった。その理由は、選挙期間中で各選挙区の詳細な数値を報告できないというものだろう。だが筆者は、実際には適切な根拠は掴んでいないのではとも考えている。「奪われた」と判断するための適切なデータと分析とを、メディアは有していないと考えているためである。
そこで今回は、参政党が自民党の票を奪ったという説について議論と分析を行う。少し長くなるが、前半ではマス・メディアのデータと分析について推測を交えて考察し、参政党が自民党から票を奪ったとする主張の根拠がそれほど強くないと論じる。後半では、衆院選の結果を分析し、実際に参政党が自民党の票を奪っていたのかどうか確認し、議論を行う。
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マス・メディア調査の支持政党はそもそも曖昧
メディア各社は情勢報道の根拠として世論調査を模した投票予定調査を用いている。これが、参政党が自民党候補から票を奪ったとする根拠を提供していると考えられる。だが、こうした投票予定調査は、その性質上、実際に「奪われた」票の大きさを示すことが難しい。
おそらく情勢調査の際に支持政党を聞いており、自民党支持者のうち一定割合が参政党候補に投票予定であることをもって「奪われた」と判断していると考えられる。しかし、筆者がしばしば述べているように、マス・メディア世論調査における支持政党は注意が必要な指標である。
マス・メディアによる電話等の調査では、支持政党を聞いた場合にとりあえず自民党と答えたり、近時で話題になっている政党の名前を挙げるような場合が多い。特に中年層以下の層ではその傾向が強いと考えられる。
政治部記者や専門家や世の政治通は、世論調査での支持政党の回答に、その政党を好んでいる、その政党に投票する可能性が高い、といった強い意味合いを勝手に期待している。しかし、多くの人々は――特に政治関心が低い層は、急に聞かれたので記憶の表層にある政党名を答えたり答えなかったりしているだけに過ぎない。支持政党なるものを日々認識している、決めている層は多くはないのである。
このため、情勢調査で支持政党を聞いて分析したとしても明快な結果を出すことはできない。自民党支持と答えた層が別の政党の候補に投票すると答えていたとしても、それはいつものことであり、今回はその行き先が参政党だったに過ぎない可能性が高い。以前の選挙では維新の会や国民民主党に投票していたような層が今回参政党に向いているのだとすれば、票を奪われたのは自民党ではなくこれらの政党ということになる。
自民党支持者しか調べていないのでは?
また、マス・メディアの分析では、自民党支持者の参政党投票率は確認する一方、支持政党なしや無回答層を含む他党支持者の参政党投票(予定)率を確認していない可能性が高い。
情勢調査から推測される参政党候補の得票率は、1人区で15%はありそうである。この得票率は、自民党支持者の一部離反で説明できる規模よりも大きく、他党支持者や支持政党なし層からも票を集めていると考えられる。また、一部報道では投票率が上昇すると予測されている。そうである場合、参政党候補は元棄権層から多くの票を調達している可能性がある。
与党だけでなく他野党や元棄権層からも票を集めているのなら、自民党支持者のみを分母とした数字で現象の全体像を表すことは到底できない。参政党の選挙結果の影響も、自民党のみに不利益になるとは限らない。
そもそも今回の参院選は、与野党逆転となった昨年の衆院選に引き続き、与党が大幅に議席を減らすことが確実であった。前回2022年参院選は野党の無益な分立で自民党が勝てた側面が強かったが、このときに比べ与党への支持は大幅に低下し、野党の総支持率は上がっており、野党候補の分立もかなり抑制されたので、与党の大幅減は当然の結果である。
こうした大局の変化を無視して、与党の大敗は参政党の躍進のためというような短絡的で間違った主張を流さないように願うが、果たしてどうだろうか。
「奪われた」をどのように捉えるのか
参政党票の出どころは、選挙後に行われる出口調査分析で一定程度明らかになるかもしれない。しかし、出口調査は出口調査で分析上の困難を抱える。
出口調査は投票所の外で行う対面調査である。そのため、世論調査と異なり多数の質問をすることはできない。性齢や投票先以外は支持政党といくつかメディアが争点だと思い込んでいる政策への賛否などを聞くのみである。
有権者ではなく投票者しか対象にならないため、出口調査は世論調査と同列に扱えないのはもちろんのこと、ここで聞く支持政党は確実に投票の影響を受ける点に注意が必要となる。普段は支持政党など考えてもいない人が聞かれるものだから、必然的に投票した政党を答えがちになる。そうでなければ、先ほど述べたように自民党支持か支持政党なしになる。
そうすると、参政党の票がどこから来たのか、その評価は難しいものになる。たとえば、もともと自民党に入れていた投票者が参政党に投票したら、参政党支持と答えるだろう。このとき、この参政党に「奪われた」票は支持政党の分析では析出できないことになる。
結局これは、「奪われた」という現象をどのように計量するかという、分析の根本に関わる問題である。せめて情勢調査や出口調査で昨年衆院選や前回参院選の投票行動を聞くことができれば、もう少し有意義な分析ができる。前回自民党投票者や他党投票者、棄権者から、どれくらいが参政党に移動したのかを知ることができるためである。リコール(思い出し)質問は信頼性に欠けるのだが、「奪われた」の奪い先の基準を、曖昧で流動的な支持政党にするよりはマシだろう。
なぜ参政党出馬区で自民党候補の得票率は低かったのか
以下、2024年衆院選のデータを用いた分析に入る。世論調査のようなデータが使えない場合でも、選挙結果データを用いれば票の移動に迫ることができる。もっとも、ここでもやはり分析には注意が必要である。まずこの点を解説する。
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- 参政党候補が入れば自民党候補は票と集めにくくなるか
- 参政党候補が参入すれば自民党得票率は低下するか
- 暫定的結論
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