自民党圧勝を生み出したのは「高市人気」でも「小選挙区制」でもない【2026年衆院選分析】
突発的に行われた2026年衆院選は自民党が小選挙区をほぼ総取りする圧勝に終わった。日本全土が自民党一色に塗り潰された選挙区地図は、普段は政治に関心が向いていない層を含めて衝撃をもって受け止められ、さまざまな議論を呼び起こしている。
もっとも、今回のような一方的な選挙結果は衆院の小選挙区比例代表並立制の下でこれまでも起きており、圧勝の規模が多少大きいとは言え不思議なものではない。それでも、異常とも映る結果に引きずられ、若者や日本人が保守化した、高市首相が若者や日本人に人気だといった、大した根拠のない議論が先走りしている。
並立制という制度を理解していれば、議席数がそれら日本人全体の政治意識の転変を語りうる材料とはならないことは明らかである。並立制は極端な結果を生み出しうるが、その要因は人々の投票行動よりも前に、政党、政治家の行動選択に存在するためである。
こうした問題意識を踏まえながら、このニュースレターでは2026年衆院選の結果を順次分析していきたい。今回はまず、主に自民党の得票率という基礎的なデータを取り上げ、今回の選挙の特徴と論点を明らかにしていく。
※今回のニュースレターは本文が長いですが、図表の説明や分析の注釈、繰り返しの主張・強調、これまでのニュースレターの議論を追認する個所が多いです。太字部分を追えば議論の大枠を理解できるようになっていますので、お急ぎの方はご自由に読み飛ばしていただければと思います。
高市自民党への支持は岸田自民党並みに回復
まず、並立制のうち比例区の結果を確認する。比例区の「相対得票率」(有効投票数に対する対象の得票数の割合を示す。以下、単に得票率とする)は、各政党が実際にどれくらい支持を受けているかを端的に示す指標である。
図表1は、11ブロックで行われている衆院比例区の各党の得票数を全国で集計したものである。この表のとおり、自民党の比例区の得票率は全党の中で最も高いが、その値は36.7%である。報道される圧倒的な選挙結果の印象に反し、比例区で自民党と書いた投票者は半数を大きく割り込んでいることがわかる。参考までに、今回衆院選の有権者数(1億351万7115人、1月26日現在の総務省発表値)に占める「絶対得票率」は20.3%である。つまり、比例区で自民党に票を投じたのは全有権者の5人に1人ということになる。
このように書くと、今回の自民党の得票率が低いように感じるかもしれない。しかし、今回の自民党得票率は、図表2に示すように並立制下では2005年の郵政解散に次ぐ高い値である。つまり高市自民党は、歴代自民党政権の中でも高水準で支持を集めていたと言える。
前回のニュースレターで述べたように、今回は自民党が公明党の集票を融通しなくなったため、歴代の選挙結果との比較ではこの増分(公明党からの返却分)を考慮して評価すべきである。前回注で示した2025年参院比例公明党得票率8.8%のうちの18%という試算なら1.6%、2024年衆院比例公明党投票者10.9%のうちの18%なら2.0%が「比例は公明」返却分となる[1]。
前者を採用するなら36.7-1.6で35.1%、後者なら34.7%が歴代比較可能な比例区得票率ということになる。これらの値でも小泉政権下の2003年衆院選(35.0%)や岸田政権下の2021年衆院選(34.7%)に匹敵する良績である。中でも、今回の56.3%に近い55.9%の投票率だった2021年衆院選が良い比較対象となるだろう。以前の記事で高市自民党が勝利するためには自民党の支持率を上げていく必要があると述べたが、衆院選当日の自民党に対する支持は岸田内閣発足直後のレベルにまで回復していたということになる。
さて、このように書くと、強烈な違和感を抱く方も多いだろう。岸田文雄首相は「増税メガネ」などと呼ばれ、動画サイトやSNSなどで殊更に叩かれた政治家であった。岸田内閣は発足当初の選挙とは言え、「サナ活」で今回衆院選を圧勝したとされる高市首相の自民党がこれと同じくらいの支持率と言われれば疑問に感じてしまうのも致し方ない。
しかし、以前のニュースレターで述べたように世論調査の内閣支持率の数字は水物である。高支持率を説明するためにメディアが集めた局所的エピソードや、動画サイトやSNSの熱烈な支持者もしくは業者の膨大な高市支持キャンペーンも、実際の支持率を示すものではない。これに対し、有権者全員が投票権を持つ選挙は悉皆調査(全数調査)であり、世論調査やネット上の目撃例から作られる印象よりも世論を端的に明示するものである。
繰り返すが、比例区得票率が示すのは、岸田内閣と高市内閣の衆院選時の自民党に対する評価は同程度である、ということである。ただし、その比例区得票率の数字は決して低くはなく、むしろ岸田内閣並みに高いと表現できるものである。
もっとも、自民党の支持率や比例区得票率は石破内閣時代の低迷状況からは脱しているが、単独で勝利するには本来不十分である。以前のニュースレターでは、公明票抜きで自民党が勝利するためには大幅な支持率と得票率の増加が必要だと論じた。だが、シミュレーションで示したように、岸田内閣並みの比例区得票率では各選挙区10%近い厚みの公明党票の離反を埋めるほどの支持率回復とはならない。回復させたとは言え、この比例区得票率が示す支持率の水準では、小選挙区で過半数を大きく超える議席を獲得するのは本来困難なはずである。
自民比例票を大幅に上回る票を集めた自民党選挙区候補
このようなデータを目の前にすれば、自民党圧勝という今回選挙の印象や「高市人気」という議論と、十分に高くはない比例区得票率という現実を埋めるための反論を提起したい人もいそうである。たとえば、小選挙区で自民党が勝ちすぎると報じられたので、与野党伯仲を願う有権者が比例区でバランスをとって自民党以外に入れたのだ、といったものである。
あくまでこれは、評論家に転じた元新聞記者などがコラムなどで開陳しそうな根拠のない俗論を筆者が勝手に想像したものである。こうしたもっともらしい言説に出くわした際は、信じる前に論理や根拠を精査したり、他の事例と比較したりすることが、これに騙されないコツである。
たとえばこの空想例の場合、なぜ小選挙区ではなく比例区でバランスを取るのか?と疑問を挟むことができる。あるいは、これまでも自民党圧勝が伝えられた選挙があったのに、そのときはバランスを取らなかったのか?と考えてもよい。
実際のデータを確認してみよう。図表3は、自公連立以降の衆院選について、自民党および同党と協力関係にあった公明党(2024年まで)、維新の会(2026年)との合計の比例区、選挙区の得票率、およびその差を示している。2024年まで、自民党単独で計算すれば選挙区得票率は比例区得票率を常に大きく上回っていたが、これは公明党との協力があったためである。自公で得票率を合計すれば、選挙区と比例区の得票率差は小さくなる。
ところが、公明党との協力が無くなった2026年衆院選では、この傾向から外れた結果となっている。自民党単独の選挙区・比例区得票率を見ると、公明党票の流入が大きく減ったにもかかわらず、自民党の選挙区候補は自民党の比例区得票率を大きく超えた得票率となっている。公明党との協力関係を解消した分、自民党の候補者数は増えているが、その分では説明できないほどの落差が選挙区と比例区の得票率の間に生じているのである。別の言い方をすれば、公明党票の離反分を埋め合わせる票をどこからか獲得できたことが、選挙区での自民党の勝因である。
ここで、選挙協力はあまり行わなかったが国政では協力関係にあった維新の会との合計で見ても、選挙区得票率が比例区得票率に対して突出して高いという傾向が見られる[2]。つまり、2026年衆院選で自民党選挙区候補の得票率が同党の比例区得票率に比較してかなり高くなっているのは、維新の会に比例区で投票した人々の選挙区での自民党候補への投票では説明がつかないのである。
このように、2026年衆院選の最大の特徴は、自民党選挙区候補が公明票の離反にもかかわらず自民党の基礎的な支持を示す比例区得票率を大幅に超える票を集めた点にある。自民党は比例区ではなく選挙区で独占的に議席を集めたことから、この点をいかに説明し、分析するかが、今回の選挙の理解の鍵となるはずである。
高市首相「人気」説では小選挙区の自民圧勝を説明できない
岸田自民党並みの比例区得票率であった高市自民党の今回選挙区での法外な圧勝の要因として、大抵の報道関係者や世の政治通の人々は、「高市人気」なるものを真っ先に挙げている。今回の自民党圧勝を「高市旋風」と表現したがる評論家風の人々も多い。しかし、「高市人気」なるものが比例区には効果がなく選挙区でのみ効果を発揮したとする議論は、過去の「人気」例と反する主張である。
図表3に示すように、2005年のいわゆる郵政選挙では、自民党の比例区得票率38.2%に対して自民党の選挙区得票率は47.8%と9.6ポイントの開きがあったが、これは歴代でも小さな差であった。選挙協力を行った公明党を合わせれば、比例区51.4%、選挙区49.2%とその差は-2.2ポイントとなり、比例区得票率の側が大きくなっている[3]。この選挙では当初から自民党の圧勝が伝えられていた。前節冒頭の架空の俗説のような比例区で他党に入れるバランス作用は見られず、むしろ比例区で自民党は通常よりも多く集票したことになる。
小泉純一郎首相は、一般には「人気」があった首相とされる。小泉内閣の下で衆院選は2003年、2005年と2回行われたが、いずれも自公の選挙区・比例区得票率の差はマイナス、つまり比例区の得票率の側が高かった。小泉首相の「人気」が投票に作用していたと考えるなら、その作用は選挙区の候補者ではなく比例区での自民党という政党名での投票により強く表れたと考えることができる。
なお、筆者自身は小泉内閣期の自民党比例区得票率の高さを「人気」と形容しない。小泉内閣の改革イメージにより、都市部を中心に自民党自体の評価が高まり、比例区での集票に繋がっていると分析しており、これを「小泉効果」と表現している[4]。いずれにしても、人々の政党リーダーの評価が選挙に影響するのであれば、それは政党に投票する比例区でより直接的に表れることになるはずである。選挙区でのみ「高市人気」が作用したとする説は、現象のメカニズムを説得的に示すことができず、論理性に欠く。
今回の選挙結果は、小泉政権の例とは全く異なる。歴代首相を大きく超える「高市人気」なるものが存在し、自民党の勝利を後押ししたのなら、自民党の比例区の得票率が2021年と同程度とはならない。あるいは、岸田首相が率いた自民党の勝利も「岸田旋風」と呼ぶ必要がある。野党共闘と称し部分的ながら野党が効率的に戦った2021年衆院選は、自民党にとって下野の危機を感じさせる状況でもあったので、そう呼んでも良いかもしれない。
どうしても今回の選挙を「高市人気」、「高市旋風」と表現したいなら、党首の「人気」なるものがなぜ比例区の政党票に乗らず、選挙区の候補にのみ乗ったのかを説明する必要がある。しかし、筆者が見たところ、「高市」を自民党圧勝の要因とする報道や評論の中で、この点を明快に説明したものはない。
小選挙区の自民圧勝は「小選挙区制のせい」ではない
今回の選挙結果で特に聞かれたもう一つの議論として、「自民党の圧勝は小選挙区制のせい」というものがある。
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