内閣支持率は必ず下落する
――世論調査報道は何を見誤っているのか
少々前に、テレビの昼のワイドショーを目撃する機会がありました。どこかのメディアの世論調査でわかった高市内閣の支持率という数字を示し、使っている装飾品が売り切れた等々のエピソードを紹介しながら、高市首相が大人気でブームが起きているといった内容でした。
SNSを覗くと、似たようなことを言っている報道関係者、評論家みたいな方々もいたりします。このように、内閣支持率と名付けられた一つの数字を見て、首相が人気だとか不人気だとか騒ぎ立てるのを見ると、政界周辺の世論調査に関する知識や理解は全然向上しないなという感想を持ちます[1]。
きっと、今回の「騒動」を一番怪訝に感じているのは、昔からの高市ファンの方々でしょう。多少嫌われたり問題となったりしても「言うべきは言う」姿勢が一部の層で評価されてきたとされていますが、それが急に大多数から支持され、「ブーム」などと報じられたりしているわけですから。自分たちが嫌ってきたマス・メディアが実施している世論調査なんかを、“にわか”のファンが意気揚々と掲げているのを見て、苦々しく思っているかもしれませんね。知りませんけど。
そんなわけで今回は、内閣支持率なる数字にどう接すればよいのか、報道のどこに注意すべきか、現在の内閣支持率に限定しないインフラ的な解説を提供したいと思います。
メディアはパーセントを温度か何かと思っている
世論調査結果を扇動的に報じてしまう報道機関やその周辺の方々の意識は、パーセントで示される支持率という数字を「温度」のようなものとして見てしまっていると考えればわかりやすいです。
たとえば●●内閣支持率70%というのは、「国民」という名前の1人の人物が●●首相に対して70℃の好感度である、というような感じです。これが35%とかになれば、「国民」氏の首相に対する好感度が半減した、「冷めた」と捉えるようなものです。
しかし、内閣支持率の数字は、「あなたは、●●内閣を、支持しますか、支持しませんか」といった質問に対して、「支持」と回答した回答者の全回答者に占める割合に過ぎません。割合は割合であって、それぞれの回答者がどのくらい熱意をもって支持しているのかは全く示していません。たとえて言えば、51℃くらいの人が70%かもしれないし、100℃の人が35%なのかもしれないわけです。
図表1は、この報道関係者の数字の誤認を絵にしてみたものです。報道関係者は、たとえば70%という数字を見ると、その数字を100人中70人が支持と回答したものと捉えるだけでなく、強い支持や好感、評価を示した人々が多数いるものと誤認してしまうのです。
しかし、パーセントの数字はそのまま割合を示しているだけで、個々人でそれがどのくらいの強さなのかを示すものでは全くありません。パーセントの数字が大きいからといって、内閣に対する熱気、「温度」が高いわけではありません。
日ごろから内閣への支持・不支持を決めている人は多くない
内閣が発足してしばらくの間の高めの支持率は、特に注意が必要です。発足後の内閣支持率の高さは、かつては「ハネムーン」と喩えられていました。このハネムーンという言葉自体はすでにあまり使われなくなっています。つまり、発足後の内閣支持率が高くなりやすいことはかなり昔から知られていた現象です。
後で見るように、高支持率で始まったどんな内閣も、時間が経てばその支持率は低下します。素直にこの内閣支持率の動向を読むとすれば、もともと多くの人が内閣に期待していたが、内閣の仕事ぶりなどを受けて徐々に失望に代わり、多くの人が不支持と回答するようになった、となるでしょうか。
しかし、このような世論調査の読み方は、大多数の回答者が政治に能動的に反応して回答する前提で成り立つものであり、マス・メディア、政界関係者、日ごろから世論調査に注目している政治通のみなさんが陥りがちな偏った有権者観が強く反映されています。
多くの有権者は、政治に強い関心があるわけではありません。政治報道を日々追っているわけではなく、政治家の印象どころか名前もあまり知りません。そして、人々が世論調査に回答する際には、大抵その質問に対する答えを事前に持ってはいません。
たとえば、これをお読みの政治リテラシーの高いみなさんであっても、「給付付き税額控除」への賛否を今聞かれてすぐに賛否どちらかを答えられる方は少ないでしょう。政治に関心のない人々にとっては、内閣や政党への支持もこれと同様です。世論調査の質問への回答の多くは、質問されたことにほとんど知識や情報すら持っていない中で、回答者がその場その場で判断して回答したものです。
これが「ふだんどの政党を支持していますか」という質問であれば、支持政党について考えていない人でも「支持する政党はない」と答えることができます。しかし、内閣支持率の質問は「あなたは●●内閣を支持していますか」という形式で、事実上イエスかノーかの2択で答えを要求します。
そして多くの人々は、内閣に対する支持態度なるものを日ごろから考えているわけではありません。そういう人々に支持か不支持かをその場で決めさせて出てきた数字が内閣支持率ということになります。
内閣発足直後は不支持を留保しているだけ
そして、内閣発足直後はこの内閣支持率の落とし穴が特に大きな時期になります。発足直後で実績も残していない内閣や首相について、支持や不支持を明確に決めている人は多くはありませんから。
繰り返しますが、政界関係者が思っているほど新首相や内閣の顔ぶれは人々に知られていませんし、マス・メディア関係者がそう思い込んでいるほど人々は政治報道に接してはいません。したがって、発足直後の内閣に比較的多数の人が「支持」と答えるのは、文字通り支持しているわけでも、まして強い好感や期待を抱いているからではありません。まだ仕事をしていない内閣や首相についてよく知らないから、とりあえず「支持」を選んでいるのです。
そして、その後の政治の動向とその報道を受けて、徐々に人々の内閣に対する支持態度が本来あるべき位置に戻っていきます。こうして様子見の「支持」だったものが「不支持」として表出するようになるわけです。
つまり、発足後の高い内閣支持率は、本来は「不支持」と表明するはずの人々が、内閣発足直後しばらくは様子見で「支持」と表明した部分が多分に含まれたものと考えられます。この発足直後の様子見の「支持」回答を、不支持と表明するにはまだ早い、材料が足りないという意味を込めて、「不支持留保」の支持と呼んでおきます。
内閣発足直後の高支持率が将来の不支持層によって作られているのだとすれば、割合にしかすぎない数字を「人気」と読み替えることの愚かさがよく理解できるでしょう。いかにパーセンテージの数字が大きくても、不支持を留保して一時的に支持と回答している層が多いのなら、そこに「熱」のようなものは感じられないはずです。
なお、高市内閣に関しても高支持率が熱狂的な支持を意味しないことは、自民党支持率が向上していないことから明らかです。この点は、歴代の高支持率内閣と比較しても特異な点です。これはまた別の機会に紹介できればと思います。
高支持率は下落のサイン
図表2は、時事世論調査の歴代内閣支持率です。時事世論調査は、コロナ禍の一時期を除き同じ手法により長年調査を続けているため、歴代内閣の比較が容易です。また、他の主要メディアの調査と異なり内閣発足直後の緊急調査を行わないため、これによる不必要な乱高下も含まれません。
この図には、内閣発足時からの顕著な下落が起きた個所に赤い矢印を入れています。いずれも急激な下落に見えますが、65年の800近いデータを詰めているため急角度になるという点は注意してください。
この図から、内閣支持率の下落は高頻度で発生しており、その多くが発足直後に起きていることがわかります。橋本内閣や岸田内閣のようにしばらく上昇してからの下落を含めれば、内閣支持率は下落するのが平常であるとも言えます。特に高支持率で始まった内閣はその後確実に支持率を急落させていることがわかります。初期に下落が生じないのは、石破内閣のように低支持率で発足した場合です。低支持率で入った場合、中曽根内閣や海部内閣、小渕内閣のように上昇する場合もあります。