マス・メディアの世論調査は若者の政治意識を拾えていない?

日本のマス・メディアは自前の世論調査を用いて「若者の世論」を報じている。だが、その詳細を分析してみると、若年層の意見分布がかなり歪んで伝えられている可能性が浮かび上がる。
菅原琢 2026.05.29
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 高市自民党は、岸田自民党に比較して若年層ではなく60歳代で比例区の得票率が伸びていたことを前回のニュースレターで示しました。数字を一部引用すると、2026年衆院選比例区での年齢層別の自民党絶対得票率は、10歳代(=18歳、19歳)・20歳代、30歳代の有権者では15%、17%であったと推定されるのに対し、60歳代では27%となっていました。この30歳代以下の数字は2021年衆院選と変わりがない一方で、60歳代では24%から3ポイント伸びていました。

 これらの数字は、マス・メディアの出口調査から計算しています。この数字を知っていれば、「若者が熱烈に高市首相を支持している」、「若者の高市人気が自民圧勝を生んだ」と主張することは難しいはずです。ところが、マス・メディアが繰り返し報じているのは、この選挙結果が示す傾向とは相反する「若者の高市人気」です。いったい何故でしょうか?

 おそらくその主要な根拠は、マス・メディア自身が実施している世論調査の「内閣支持率」の数字です。この数字が若年層ほど高い傾向が見られるため、マス・メディアは盛んに「若者の高市人気」という俗説をまるで事実として報じ、その背景を探ろうとしているのです。

 つまり、選挙での自民党への投票割合と内閣支持率という2つの数字について、特に若年層で大きな乖離があるわけです。この乖離がどのように生じているのかがわかれば、「若者の高市人気」という俗説の背景をより詳らかにできるでしょう。

 そこで鍵となるのが、マス・メディアが実施している世論調査の歪みです。マス・メディア世論調査は、日本の有権者の政治意識を描写したものとして報道されます。年齢層に分けて回答傾向を見るというデータ分析により、「若者の高市人気」説も流布されるようになったわけです。この世論調査の何らかの特性、欠陥が、実際の投票行動とは乖離した「世論」の数字を生み出したと疑われます。

 このような問題意識から、マス・メディア世論調査において年齢層別の回答分布がどのように歪められているのか確認していきたいと思います。

「世論調査デタラメ論」のデタラメ

 今回のニュースレターでは、世論調査が実際の世論を歪めていることを示していきます。ただし、今回の議論は「世論調査はデタラメで参考にならない」といった、巷の政治通や過度に政治的な方々が吹聴している言説に賛同するものではないと先に述べておきたいと思います。このような反マス・メディアと結びついた俗論は有害無益です。

 マス・メディアの世論調査は、「有権者全体の縮図」となるように対象者を選び出し、回答を得ています。しかし、実際の回答者群は綺麗に「有権者全体の縮図」とはなっていません。多くの世論調査では、回答者に占める若年層の割合が日本の有権者全体の年齢構成より低くなっています。「回答者の年齢構成が歪んでいる」といった巷でよくある批判は、その意味では正当です。層化2段無作為抽出による面接調査の時代から比較すれば、現在主流の固定電話・携帯電話混合のRDD法による電話調査では、「有権者全体の縮図」が劣化したと想像することは間違いではないでしょう。

 そのうえで、マス・メディアの世論調査では、これらの問題を適切に解消すること、つまり「有権者全体の縮図」を適切に作ることが難しくなっています。それが有効にできるなら調査者も最初からそうしているでしょう。実際のところ、抽出対象者のうち一部しか回答しないことによる非回答バイアスが問題だと、世論調査の実施者は昔から理解しています。しかし、非回答者がどのような回答をするかは不可知であるため、これを「復元」して「真の回答分布」(全員から回答を得られた場合の回答分布)を求めることは不可能だということも知っています。

 ところで、現在のRDD法による電話調査での「回答率」は「有権者であることが判明した相手のうち回答した割合」であり、無応答や全く相手にされなかった場合を分母に含みません。SNSではよく、「この世論調査は回答率が40%しかいない」といった非難が沸き起こりますが、下表の実験的な調査結果でも明らかにされたように、携帯電話の調査では無応答も含めた「回収率」は2割に満たないと推定されます[1]。つまり「回答率」で示されるより事態は遥かに深刻です。

 このように、現代のマス・メディア世論調査の回収率は非常に低いと考えられています。しかし、この低回収率をもって世論調査が全くのデタラメとすることは間違いです。回収率が低いことは、その回答分布が真の回答分布から大きく外れていることを直接は意味しないためです。

 言い換えると、回収率が低くとも、そこから得られた回答分布が真の回答分布に近いのであれば問題ではありません。実際のところ、回収率の低さを非難する巷の「世論調査はデタラメ」論者の中で、世論調査結果の歪みの大きさ、あるいは真の回答分布を示せている方はおそらく皆無でしょう。世論調査結果がデタラメである根拠を示せていないのに「デタラメだ」と叫んでしまうのは、マス・メディアキャンセル界隈の手癖なのでしょう。

低回収率でも意味がある(?)

 そもそも、世論調査結果に歪みがあったとしても、その歪みがどの程度なのかを示すことは難しいものです。先述のように非回答者の回答はわからないわけですから、歪んでいるとも、歪んでいないとも、簡単に主張できるものではありません。

 ただし、毎回同じ手法で調査をし続けているなら、どのように歪んでいるのか不明であっても、常に似たような歪みが生じていると想定することはできます。2000年前後のRDD法導入以降、マス・メディアの世論調査担当者の一部は、世論調査はトレンドを見るものだと主張しています。結果が真の回答分布から歪んでいたとしても、数字の変動の傾向(たとえば、支持率が継続的に下落しているなど)は確かだ、という議論です。

 もっとも筆者個人の見解としては、「回答分布が歪んでいたとしてもトレンドは正しいはず」という主張は、マス・メディア世論調査の質問の多くがトレンド観察を目的としないワンオフの質問で構成されていることを鑑みれば、世論調査の一部しか擁護していないと考えています[2]。つまり、「トレンドは正しい」論は内閣支持率や政党支持率など固定的な質問項目についてのみ適用される議論と捉えるべきでしょう。

 ただし、定期的に設定されてトレンドを把握できる質問であっても、それだけでその背景、要因を言い当てることは困難です。しかし、マス・メディアの報道は、トレンドを伝えるだけでなく、「○○の影響で支持率が下落した」などと軽々にその「理由」を報じます。内閣支持率を人気と解釈し、その数値の増減にお気に入りの事実をあてがうことが、日本のマス・メディアの世論調査報道になっているわけです。

 ただそれでも、マス・メディアの世論調査が日本の有権者の政治意識の動向を知ることのできる数少ない有益な手がかりであることは確かです。少なくとも、反マス・メディア感情から吐き出される俗論の類よりは、現代政治について理解を深める可能性を持った材料です。これをいたずらに否定したところで無知が深まるだけですので、本ニュースレターでは有意義に活用していこうと思います。

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続きは、5033文字あります。
  • 30歳代、40歳代の投票者が過大に含まれる
  • 若中年層で特に強い自民党バイアス
  • マス・メディアの世論調査は若中年層の政治意識を的確に把握できていない

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